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文学フリマレポート

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 文学フリマに自主制作本の「トレモロ」と「未来研究」を持っていった。客としても参加したことがないのにいきなりサークル参加をする、というこの度胸と行動力に関しては少しだけ誰かに誉めてもらいたい。でもどうせ誰も見に来ないだろうし、今回は様子見でいいや、なんて思いながらそれぞれ8冊ずつ持っていった。

 前日に気づいたことだが、1サークル(個人出店でもサークルと呼ぶ)につき与えられる机のスペースは長机の半分。一般開場20分前に到着して、会場内の見本誌のコーナーに1冊ずつサンプルを置いて、急がないと準備間に合わないな、とか心配になったけどセッティングはものの5分で終わった。しかも隣りの出品者はまだ来ていない。周りを見ると机にカラフルな布を敷いたりミニイーゼルに本を立てかけたり、ポスターを垂らしたりポップを付けたりと、いろいろな工夫を凝らしている。なんてみんな明るいんだろうと思った。

 11:00になって開場してから隣りの出品者が到着し、僕が席を間違えていることをやさしく教えてくれた。机の左側が僕の本来の席だったのだが、右側にセッティングしてしまっていたのだ。どうして間違えたのかというと説明が難しい。机の真ん中に席の番号シールが貼ってあって、そこに2サークル分の席の指定が書いてあったのだが真ん中の上の方に「▲」という矢印のマークがあり、僕の番号は左上の方に、隣りの人のは右下の方に書かれてあって、しかも到着したときにはパイプ椅子と他のサークルが置いていったチラシの山で机の上がグチャグチャだったので左端に隣りのサークル用の同じようなシールが貼ってあると思って確認したつもりだった白いシールが実はそれは白いチラシの端っこの部分だったのだ。なんだかややこしい。とにかく謝って本をスライドさせたら再セッティングは15秒で終わった。布やら看板やらという余計なものをとことん省いた構成の勝利。遅れて来た隣りの人は出品物がすべてフリーペーパーだったようで、ざっくりといくつかのコピー誌を置いたらどこかに去っていった。いちばんシンプル。

 開場後15分でいきなり2冊売れた。見知らぬ男性がやって来て見本をちょっと手に取ったあと、1冊ずつお買い求め下さったのだ。見本を見てくれている時間の気まずさったらなかった。読んでいる姿を真顔で見つめているわけにもいかないので、無料で配布されていた文学フリマのカタログの空いているページに「トレモロ」「未来研究」とボールペンで書いてみた。意味が分からない。ただ一生懸命になにかを書いているふりをすればお客さんがリラックスして見てくれると思ったのだ。800円のお買い上げ。まじかよ。いきなり? オレなんもしてないんですけど。わりとまっすぐ僕のところに来たので、たぶん見本誌ブースに置いたサンプルを見て来てくれたんだと思う。かなり嬉しい。さっきの「トレモロ」「未来研究」と書いた横に「1、11:15」と記入。何時に売れたかを記しておくことにしてみる。どうせ売れないと思ってほとんどお釣りを用意していなかったことが一気に不安になってきた。明らかに準備不足。会場に来るまでになるべく小銭を増やそうと思って1,000円札で電車の切符を買い続けて来たものの、500円玉3枚と100円玉14枚しか手駒がない。この調子で15分ごとに売れていったらやばいんじゃないか。むしろもう売れないでくれ。じゅうぶんじゅうぶん。

 他のサークルの中には立ち上がって「良かったら見ていって下さーい」などと明るく呼び込みをしているところもあったが僕は終始無言でうつむいていた。なるべく存在を気づかれないように、あたかも「自分は姉貴に頼まれて今日来てるだけなんす。いや、1時まで店番頼まれてて。あとでたこ焼きおごってもらって帰ります」みたいな「イヤイヤ手伝いに来ている弟」感をかもし出すことに全霊をかけた。それでもたまにお客さんは見本を手に取ってくれる。僕は一切目を合わせることなく軽く会釈をする。自分だったらサンプルの本を手に取った瞬間に作者に構えられたくない。うつむいて文フリのカタログをめくりながら他の600あまりのサークルの紹介文をすべて読んだ。
 しかしどんなに気配を消し、お客さんにプレッシャーを与えないように気を使ってもなかなか購入とまでは至らない。たかが数百円の本でも、やっぱりその場でピンと来て衝動買い、ということは基本的にないようだ。僕の願いが文学の神様に届いたのか、結局そのままタイムリミットの13時まで、最初のお客さん以外に売れることはなかった。
 
 まあそんなもんだ。僕は13時になるとそそくさと本を片付けてカバンにしまった。30秒で片付け終わる。昼を過ぎて、お客さんの数も結構増えてきたところでのあっけない退場。なんか寂しかった。こんなに早く店をたたむサークルはいないだろう。もしかしたら、さっき見本だけ見て去っていったお客さんの中に、もう一度戻ってきて買ってくれる人もいたかもしれない。しかし僕はこれから大事なアルバイトにどうしても向かわなければならないのだ。涙をのんで机の上にパイプ椅子を戻す。フリーペーパーを放置していった隣りのサークルの方は結局一度も戻ってこなかったので、もうひとつのお隣さんの、男性女性一組で出店されているサークルの方々に「お先に失礼します」とだけ言ってその場を後にした。

 2時間席を立てなかったので、まずトイレに行きたかった。朝ご飯も食べていなかったので猛烈に腹が減っていた。次回はいろいろと作戦を立てなければならない。「外出中」の札とかを置いておいてご飯を買いにいく時間を作ったり、他のサークルもちゃんと見学したい。カタログを見たら面白そうな本を出しているところが結構見つかったのだ。しかし様子見という今回の目的は果たした。悔いはない。
 賑わう文学フリークたちの雑踏をすり抜け、達成感と一抹の寂しさを漂わせた背中を向けて僕がホールを出ようとしたとき、突然だれかに後ろから呼び止められた。振り向くとさっき挨拶を済ませた隣りのサークルの男性の方がいた。なんか忘れ物したっけ、とか思ったら、「どこかのタイミングで買おうと思って」と、「トレモロ」と「未来研究」を1冊づつ買って下さった。僕が2時間ずっとうつむいて一言も喋らず、イベントの半分の時間も経っていないのにいきなり店をたたんで「お先に失礼します」だったからタイミングを逸したのも無理はない。それとも僕がすごく寂しそうな顔をしていたためにやさしさで買ってくれたのか。だとしたらやさしすぎるよ。ふいに両目から涙があふれた(これはウソ)。最後の最後に起きたドラマだった。

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 文学フリマが終わったので、メールにて「未来研究」の注文の受付を始めます。ウェブサイトの「BOOKS」 のページより、書籍の注文のメールを送信して下さい。どうぞよろしくお願い致します。
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by msk_khr | 2012-11-20 19:21 | 日々のこと