初めてスカートを見た日
「音ゼミvol.6」という「ある漫画家を中心に集まった仲間がDJとしていろんなレコードをかけまくる会みたいなやつ」に行った。気になっているミュージシャンであるスカートがゲストとしてDJ+弾き語りライブをするという情報を得たからだ。僕はそういった「DJ」という人がいる「ライブハウス」だとか「クラブ」みたいなところには足を運んだことがなかったからちょっと怖くて、行くかどうか当日ギリギリまで悩んだが、チャージ代300円だし(チャージ代というのも知らなかったが入場料的なことだった)、初めてお笑いライブに行ったときのように、決死の覚悟で渋谷に降り立った。
会場である喫茶SMiLEの入っているビルの前に夜の8時頃に着いて、3階の入り口まで階段を上った僕は5秒で引き返した。これは間違えたと思った。ドアにはちゃんと喫茶SMiLEの表札が掛かってたし、主催の漫画家さんのイラストと思われるチラシも貼ってあったので確かに合っているのだが、違う意味で絶対に間違えたと思った。ここは自分の来るところじゃない。心からそう思った。ドアは古いマンション特有のグレーの鉄の扉。中の様子は一切見えない。ドアの向こうからは自分の知らない種類の音楽が大音量でもれている。怖すぎてドアノブを触る気にもなれなかった。心の中に育っていた木の、結構な数の枝がまとめて折れたような気分になって、僕は全部なかったことにして階段を下りていった。
下りる途中で自分と同い年くらいの青年とすれ違った。「行くの?」って思った。彼はサブカルチャーに精通していそうな身なりだった。確かな足取りで階段を上っていく彼を僕は背中で見送った。ビルの外に出ると自分と同い年くらいの女性が喫茶SMiLEの窓を見上げていた。ヴィレッジヴァンガードが好きそうな身なりだった。場所がここで合ってるかどうかの自信がないのか、僕と同じように入る勇気がないのか、どっちともとれる表情だった。しかしさっきの青年が階段を上っていったのを見て決心がついたのか、青年のあとに続いてその女性も階段を上っていった。「友達に付いて来ました的オーラを出す作戦」を思いついた僕はそこで瞬時に引き返した。世界で最もかっこわるい男選手権が行われたら自薦しようと思う。
前の女性が中に入った1秒後にドアを開けたら予想していなかった光景だった。店の中は思ったよりも暗く、混雑したバスみたいに扉の手前までお客さんで溢れていた。ワンドリンクを注文しなければいけないが、2m先にあるカウンターまでたどり着くまでに結構時間がかかった。さっきの女性は生ビールをジョッキで頼んでいた。意外にタフガールだ。僕はメニューをざっと眺め、目に留まった「カルーア(コーヒー)」を頼もうと思って「カルーアコーヒー」と言ったのだが、すんなりと伝わらず「何で割りますか」とかなんとか言われてまごついた。え、って思った。「カルーアコーヒー」という言葉の先に「割る」という概念がなかった。よく見ると「カルーア」のあとに括弧つきで(コーヒー)となっている。その意味が全然分からなくて汗が噴き出た。いやこの括弧なに。そもそも「カルーア」ってなんだよ。これでは酒のこと何にも知らないやつだと思われる。店員さんが「ミルクですとか・・」と言った瞬間に「じゃあミルクで」と答え、なんとか注文を済ませたころには汗がびっしょりだった。
その時のDJはちょうどスカートだった。いわゆるクラブミュージック的な電子音バキバキの音楽じゃなく、ちょっと古めのシャレた音楽が流れる奥の方で、15人くらいの大人たちが海藻みたいに揺れていた。奥に行く余裕はまったくなく、とりあえず額から流れる汗を拭くためにメガネを外したり、上着を脱いだり、カバンからハンカチを探したり、傘やら「カルーア(コーヒー)」やらを最適なポジションで持つのに必死になっていた。とにかく店の中は暑かった。壁には漫画家さんが描いたキャラクターのCGイラストが貼られていた。まさに最近のマンガの絵柄なんだけど、すごく上手かった。僕はちょっとだけ音楽に合わせて体を揺らしながらしばらく絵を眺めた。ふとさっきの女性を見るとビールのジョッキがいきなり空になっていた。
しばらくするとスカートの弾き語りが始まった。人が前にいっぱいいたので顔やギターの手元はほとんど見えなかったが、「ストーリー」という曲が生で聞けて、本当に来て良かったと思った。この曲は歌詞もメロディも声もすごく良いのだが、一番いいと思ったのがコード進行だった。コード進行、とかっこつけて言ってみたがコードのことは何にも知らない。ありふれたコード進行なのか、珍しいコード進行なのかわからないけど、ただ和音がすごくいい順番で鳴っている感じなのだ。スカートの曲で特に好きなのが「ストーリー」「だれかれ」「花をもって」「S.F.」「魔女」。これらの曲は自分が絵の世界で描きたい感じの、すごく近いところを表してくれている気がする。家に帰ったらコードについてネットで調べてみようと思った。
ipodでスカートを聞きながら家に帰ると、僕はまず「カルーア」について検索した。
会場である喫茶SMiLEの入っているビルの前に夜の8時頃に着いて、3階の入り口まで階段を上った僕は5秒で引き返した。これは間違えたと思った。ドアにはちゃんと喫茶SMiLEの表札が掛かってたし、主催の漫画家さんのイラストと思われるチラシも貼ってあったので確かに合っているのだが、違う意味で絶対に間違えたと思った。ここは自分の来るところじゃない。心からそう思った。ドアは古いマンション特有のグレーの鉄の扉。中の様子は一切見えない。ドアの向こうからは自分の知らない種類の音楽が大音量でもれている。怖すぎてドアノブを触る気にもなれなかった。心の中に育っていた木の、結構な数の枝がまとめて折れたような気分になって、僕は全部なかったことにして階段を下りていった。
下りる途中で自分と同い年くらいの青年とすれ違った。「行くの?」って思った。彼はサブカルチャーに精通していそうな身なりだった。確かな足取りで階段を上っていく彼を僕は背中で見送った。ビルの外に出ると自分と同い年くらいの女性が喫茶SMiLEの窓を見上げていた。ヴィレッジヴァンガードが好きそうな身なりだった。場所がここで合ってるかどうかの自信がないのか、僕と同じように入る勇気がないのか、どっちともとれる表情だった。しかしさっきの青年が階段を上っていったのを見て決心がついたのか、青年のあとに続いてその女性も階段を上っていった。「友達に付いて来ました的オーラを出す作戦」を思いついた僕はそこで瞬時に引き返した。世界で最もかっこわるい男選手権が行われたら自薦しようと思う。
前の女性が中に入った1秒後にドアを開けたら予想していなかった光景だった。店の中は思ったよりも暗く、混雑したバスみたいに扉の手前までお客さんで溢れていた。ワンドリンクを注文しなければいけないが、2m先にあるカウンターまでたどり着くまでに結構時間がかかった。さっきの女性は生ビールをジョッキで頼んでいた。意外にタフガールだ。僕はメニューをざっと眺め、目に留まった「カルーア(コーヒー)」を頼もうと思って「カルーアコーヒー」と言ったのだが、すんなりと伝わらず「何で割りますか」とかなんとか言われてまごついた。え、って思った。「カルーアコーヒー」という言葉の先に「割る」という概念がなかった。よく見ると「カルーア」のあとに括弧つきで(コーヒー)となっている。その意味が全然分からなくて汗が噴き出た。いやこの括弧なに。そもそも「カルーア」ってなんだよ。これでは酒のこと何にも知らないやつだと思われる。店員さんが「ミルクですとか・・」と言った瞬間に「じゃあミルクで」と答え、なんとか注文を済ませたころには汗がびっしょりだった。
その時のDJはちょうどスカートだった。いわゆるクラブミュージック的な電子音バキバキの音楽じゃなく、ちょっと古めのシャレた音楽が流れる奥の方で、15人くらいの大人たちが海藻みたいに揺れていた。奥に行く余裕はまったくなく、とりあえず額から流れる汗を拭くためにメガネを外したり、上着を脱いだり、カバンからハンカチを探したり、傘やら「カルーア(コーヒー)」やらを最適なポジションで持つのに必死になっていた。とにかく店の中は暑かった。壁には漫画家さんが描いたキャラクターのCGイラストが貼られていた。まさに最近のマンガの絵柄なんだけど、すごく上手かった。僕はちょっとだけ音楽に合わせて体を揺らしながらしばらく絵を眺めた。ふとさっきの女性を見るとビールのジョッキがいきなり空になっていた。
しばらくするとスカートの弾き語りが始まった。人が前にいっぱいいたので顔やギターの手元はほとんど見えなかったが、「ストーリー」という曲が生で聞けて、本当に来て良かったと思った。この曲は歌詞もメロディも声もすごく良いのだが、一番いいと思ったのがコード進行だった。コード進行、とかっこつけて言ってみたがコードのことは何にも知らない。ありふれたコード進行なのか、珍しいコード進行なのかわからないけど、ただ和音がすごくいい順番で鳴っている感じなのだ。スカートの曲で特に好きなのが「ストーリー」「だれかれ」「花をもって」「S.F.」「魔女」。これらの曲は自分が絵の世界で描きたい感じの、すごく近いところを表してくれている気がする。家に帰ったらコードについてネットで調べてみようと思った。
ipodでスカートを聞きながら家に帰ると、僕はまず「カルーア」について検索した。
by msk_khr
| 2012-03-24 00:54
| 日々のこと