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memo

ふるさと

 駅からの帰り道が好きです。僕の実家の最寄りの駅は、飯山満(はさま)という変な名前の私鉄の駅で、家から歩いて8分くらいのところにあります。その駅からの、夜の帰り道がたまらなく好きです。

 僕が子どもから大人になる間に、ちょっとだけふるさとの景色も変わってきました。駅前は僕が小学6年のときに引っ越して来た頃から、今もずっと、何らかの工事をしています。10年前はコンビニとクリーニング屋しかありませんでしたが、タクシー乗り場ができたり、バス停ができたり、コンビニとクリーニング屋がいつの間にかなくなって、別のコンビニができたり、2年前くらい前にはやっとひとつだけマンションが建ちました。あの頃から僕も体は少し大きくなりましたが、心の中身はあんまり変わってないような気がするので、10年そこらの年月ってそんな程度のものなのかも知れないな、と思います。

 駅からの帰り道には、ひとつ思い出があります。たしか大学生のとき、学校が終わっていつものように駅に着くと、偶然同じ電車に乗っていた会社帰りの父と出くわして、一緒に家まで帰ったことがありました。そのとき話した内容はほとんど覚えていないのですが、ひとつだけ今も覚えている会話が、父が「この帰り道が好きだ」と言っていたことです。駅前には「調整池」という、集中豪雨などの際に雨を一時的に受けとめるための池があって、緑の大きなフェンスで囲われたその池に沿って歩く通りがあるのですが、その道を歩いているときに父がそう言ったのでした。左側は住宅街、右側には立ち入り禁止の調整池。フェンス越しには池は見えず、伸び放題の雑草と、遠くの方に集合団地の明かりがぽつりぽつりと見えるだけです。飛行機の滑走路の感じに似ている、とか、空港を思い出す、というようなことを父は言っていました。
 ここに越してくる前に、しばらく北海道の札幌に住んでいたので、そのとき使った空港のイメージと重なったのか、その間に単身赴任で1年くらい釧路に行っていたときの風景を思い出したのか、僕は何も聞かなかったのでわかりませんが、父も感傷的になることがあるんだなあ、と、ちょっとだけ意外に思ったのを覚えています。

 今日も僕は駅からその道を歩いて来たのですが、僕はそのフェンス沿いの道を通るたびに、父が「この帰り道が好きだ」と言っていたことを思い出すようになりました。いつか自分にも子どもができて、この道をふたりで通ったとき、僕もまた「この道が好きだ」と子どもに言うだろうと思いました。そのとき僕は、父とふたりで帰ったことをきっと思い出すだろうな、と思いました。

 もうすぐ駅前に、新しいスーパーマーケットが建設されるそうです。また少しふるさとの景色が変わります。何だかちょっと寂しいような、でもそんなことじゃ全然寂しくないような、そんな気持ちです。

 
by msk_khr | 2012-03-15 23:49 | 日々のこと