ひとり講評
とある美術予備校で講師をしている。夜間部生担当の僕は主に夕方に仕事に入り、美大進学を目指す高校生たちに鉛筆デッサンや水彩の指導に当たっている。だいたい1日3時間、1週間で1枚の絵を描かせ、課題の最後には講評がある。普段は土曜日に制作が終わり、もうひとりの夜間部の講師と僕で講評を行うのだが、今週の課題は木曜で終わり、その日出講していた僕ひとりで講評をすることになった。
僕は少し憂鬱だった。今までにも何度かひとりで講評をしたことはあったが、ふたりでやるのに比べて間の取り方が難しいのだ。相槌がないので、ピン芸人さながら自分のテンポで場の流れを作っていかなければならない。ひとりでは何もできないと生徒に思われるのは癪だ。僕は以前足を運んだエド・はるみのトークライブを思い出し、イメージトレーニングを充分にしてアトリエに入っていった。
僕は意外にしっとりと講評を始めた。生徒は7人と少ないので、それほど緊張することはない。珍しくひとり講評だということで生徒側も若干ワクワクしているようだった。まずは今回の課題のねらいを軽く説明。作品全体を通しての感想。そして作品ひとつひとつについてのアドバイス。思ったよりもスムーズに進む。お笑いを見始めてから僕は人前でしゃべることへの苦手意識が少し薄れていた。ひとりだからといって無理にテンションは上げない。いつもはもうひとりの講師が笑いを取っていくので講評中に必ず1つは爆笑のくだりがあるが、僕はむしろ落ち着いたユーストリーム配信をイメージし、小さな笑いを無難に取るように心がけた。
講評が恐ろしく普通に終わり、次の課題の説明に入る。少ししっとりしすぎたと思った僕は最後に、中くらいの声で突然「イェ〜〜イ!」と言いながら両手でチャラめにピースをするというボケを放ってみた。「普段は絶対にそんなことはしないのに、もうひとりの先生がいない分のテンションを必死にカバーしてみる」という微笑ましいボケ。今までの落ち着いたテンションはこのための伏線だったのだ。少なくとも失笑レベルの笑いは取れると思った。
案の定、みんなクスクスと笑ってくれた。しかしその中でひとりだけ全く表情を変えず、鉄仮面の如くこちらを見つめる生徒がいるのを僕は目の端に捉える。その子は「あえてひとりだけ真顔のままでいる」というワンランク上のボケをしていた。
僕も真顔で応戦してみた。
僕は少し憂鬱だった。今までにも何度かひとりで講評をしたことはあったが、ふたりでやるのに比べて間の取り方が難しいのだ。相槌がないので、ピン芸人さながら自分のテンポで場の流れを作っていかなければならない。ひとりでは何もできないと生徒に思われるのは癪だ。僕は以前足を運んだエド・はるみのトークライブを思い出し、イメージトレーニングを充分にしてアトリエに入っていった。
僕は意外にしっとりと講評を始めた。生徒は7人と少ないので、それほど緊張することはない。珍しくひとり講評だということで生徒側も若干ワクワクしているようだった。まずは今回の課題のねらいを軽く説明。作品全体を通しての感想。そして作品ひとつひとつについてのアドバイス。思ったよりもスムーズに進む。お笑いを見始めてから僕は人前でしゃべることへの苦手意識が少し薄れていた。ひとりだからといって無理にテンションは上げない。いつもはもうひとりの講師が笑いを取っていくので講評中に必ず1つは爆笑のくだりがあるが、僕はむしろ落ち着いたユーストリーム配信をイメージし、小さな笑いを無難に取るように心がけた。
講評が恐ろしく普通に終わり、次の課題の説明に入る。少ししっとりしすぎたと思った僕は最後に、中くらいの声で突然「イェ〜〜イ!」と言いながら両手でチャラめにピースをするというボケを放ってみた。「普段は絶対にそんなことはしないのに、もうひとりの先生がいない分のテンションを必死にカバーしてみる」という微笑ましいボケ。今までの落ち着いたテンションはこのための伏線だったのだ。少なくとも失笑レベルの笑いは取れると思った。
案の定、みんなクスクスと笑ってくれた。しかしその中でひとりだけ全く表情を変えず、鉄仮面の如くこちらを見つめる生徒がいるのを僕は目の端に捉える。その子は「あえてひとりだけ真顔のままでいる」というワンランク上のボケをしていた。
僕も真顔で応戦してみた。
by msk_khr
| 2011-09-17 02:11
| 日々のこと