これからも僕は彼を避け続ける
昨日、夜の11時頃に仕事から帰り、マンションのエレベーターが来るのを待っていた。僕の住むマンションのエレベーターの昇降口は1階には無く、扉を開けて15段くらいの階段を上った先の2階部分にある。ふと後ろに人の気配を感じたので階段の下を振り向いてみると、隣りの部屋に住む大学生がちょうど同じ時間に帰ってきたところだった。まずいと思った。このままではエレベーターの中で気まずい空気が流れることになる。僕は数ヶ月前のある事件のことを瞬間的に思い出していた。
以前、隣りの大学生宛の郵便物が自分の家のポストに誤配されたときに、不注意でそのまま開封してしまい、謝って返そうと思ったがいくら訪ねても居留守を使われ、仕方なく郵便物と謝罪文とお菓子の入った袋を彼の家のドアノブにかけておいて様子を見たというほろ苦い思い出。それから何のレスポンスもないまま数ヶ月が過ぎ、僕はたまたま駅からの帰り道で彼を見かけたときも、万が一にでもマンションのエレベーターなんかで一緒になることがないように、歩く速度を極端に遅くしてタイミングをずらすくらい彼との衝突を避けていた。
彼が階段を上ってくる間、僕はあの時の郵便物の件を改めて謝ろうと考えていた。ここで謝ればこの心のわだかまりが消えるはずだ。もしかしたら「全然気にしなくていいですよ」なんて笑顔で返してくれて、これから顔を合わせたら挨拶を交わすような仲になれるかもしれない。チャンスだった。まずは目を合わせよう。誠実な青年を演じるのはめっぽう得意だった。そうこう考えているうちにエレベーターが到着。僕は彼が乗るまで落ち着いて「開」ボタンを押し続けた。
エレベーターのドアが閉まり、上昇し、ドアが開いた。ぼんやりとした目つきでまた「開」ボタンを押している僕に対して、彼が恐縮そうな感じでちょっと会釈気味に先に降りていった。隣りの部屋なので僕は彼に着いていくように3歩後ろを歩き、僕らは無言で各々の家の鍵を開けた。
ふたりを乗せた密室空間が目的階に着くまでの数十秒間、僕は壁に寄りかかって目頭を押さえたりしながら、「とにかくものすごく疲れていて、一言もしゃべる気力のない人」を演じる作戦に突如切り替えていた。
以前、隣りの大学生宛の郵便物が自分の家のポストに誤配されたときに、不注意でそのまま開封してしまい、謝って返そうと思ったがいくら訪ねても居留守を使われ、仕方なく郵便物と謝罪文とお菓子の入った袋を彼の家のドアノブにかけておいて様子を見たというほろ苦い思い出。それから何のレスポンスもないまま数ヶ月が過ぎ、僕はたまたま駅からの帰り道で彼を見かけたときも、万が一にでもマンションのエレベーターなんかで一緒になることがないように、歩く速度を極端に遅くしてタイミングをずらすくらい彼との衝突を避けていた。
彼が階段を上ってくる間、僕はあの時の郵便物の件を改めて謝ろうと考えていた。ここで謝ればこの心のわだかまりが消えるはずだ。もしかしたら「全然気にしなくていいですよ」なんて笑顔で返してくれて、これから顔を合わせたら挨拶を交わすような仲になれるかもしれない。チャンスだった。まずは目を合わせよう。誠実な青年を演じるのはめっぽう得意だった。そうこう考えているうちにエレベーターが到着。僕は彼が乗るまで落ち着いて「開」ボタンを押し続けた。
エレベーターのドアが閉まり、上昇し、ドアが開いた。ぼんやりとした目つきでまた「開」ボタンを押している僕に対して、彼が恐縮そうな感じでちょっと会釈気味に先に降りていった。隣りの部屋なので僕は彼に着いていくように3歩後ろを歩き、僕らは無言で各々の家の鍵を開けた。
ふたりを乗せた密室空間が目的階に着くまでの数十秒間、僕は壁に寄りかかって目頭を押さえたりしながら、「とにかくものすごく疲れていて、一言もしゃべる気力のない人」を演じる作戦に突如切り替えていた。
by msk_khr
| 2011-09-10 23:47
| 日々のこと