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memo

天丼屋にて

 僕の家のトイレで個展をする予定のWさんが下見をしに来た。トイレ兼浴室に足を踏み入れた瞬間「あれ、思ってたよりも狭い」と言われたが、「そんなこと言われても」と思った僕は「前に来た時はかなり酔ってましたからね」などと微妙に的外れな返答をした。

 ひととおり採寸を済ませたのち、Wさんがお礼にお昼ご飯を御馳走してくれるということで近くにある天丼屋に行った。僕は胃腸が弱い上にまだ若干寝起きモードだったので、油っぽい天丼なんか食べたら絶対に吐くと思った。しかしWさんは相当天ぷらが食べたい気分らしく、二軒ある天丼屋のどちらにするかを決める段階にすでに入っていたので僕は流れに身をまかせた。

 下町にありがちな古いお店に入った。若い頃に旦那とこの店を構えました的な80歳くらいのおばあさんが、お茶とおしぼりを持ってきてくれた。この店にはアナウンサーの安住紳一郎が来たことがあるらしく、彼のサイン入り色紙が壁に飾ってあった。5秒ほど眺めたがすぐに興味を失った。
 
 Wさんは1,000円くらいの天丼を頼んだ。僕がざっとメニューを眺め、同じ値段の「親子重」にしようと決めたとき、さっきのおばあさんが突然1,600円もする「穴子天丼」を勧めてきた。僕はそれだけは頼まないだろうと思っていたのできっぱりと「親子重をください」と言った。僕の意思の固さに営業意欲を削がれたおばあさんは、「天ぷらがおいしいのにぃ」と捨て台詞を残して去っていった。

 「そんなこと言われても」と思った。
by msk_khr | 2011-05-03 21:49 | 日々のこと