でも結局行く勇気はない

　給料が入ってからまだ2日しか経っていないのに早くも背筋が凍りついている。
　家賃、年金、工房の月謝、光熱費その他もろもろを合計して今月の給料から引き算したところ、完全に負の値が出てしまったからだ。もちろん食費は計算に入れていないので、来月の25日までの食料はマジシャンのセロよろしく雑誌や広告の写真から取り出さねばならない。

　そんな絶望的な気持ちの中、今日は下北沢までサイレント・コントライブを観に行った。チケット代の2,000円は先月払ってしまっていたから今更取り戻すことはできない。この際お金のことは一旦忘れて思い切り楽しむことにしよう。視野を広げ、感性を磨いた方がこれからの自分を救ってくれるはずだ。



　ゲームと実世界を結ぶサイレントコント「クニに乾杯」。上の予告動画を観て、ゲームをモチーフにしたお笑いの舞台と思っていたがちょっと違った。きちんと練られたストーリーがあり、コントライブなのに笑いの要素はほとんど最初と最後だけ。むしろ中盤でちょっと泣いたくらいだ。センスのいい8bitテレビゲーム風の映像とBGM、そして何より演出と演技が素晴らしく、予想以上の感動をもらった。

　丁寧にアンケートを書いたあと、ホールから足を一歩出した瞬間にお金の悩みのスイッチがオンになる。急激に気分が落ち込んだ。明日は通帳に記帳をして預金残高を確認しなければならない。おそらく携帯電話の料金と奨学金の返済額が引かれているはずだ。それでさらに絶望の縁に追いやられることは間違いないだろう。

　家に戻ると、そんな僕に追い打ちをかけるようにカードの利用明細書が届いていた。今月は友人の結婚式に出席するために少々良いネクタイを買ったのだ。その分を2週間後までに銀行に入金しておかなければならない。
　
　にわかに「スロット」という遊技への興味が湧き始めた。