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memo

ひとり遊び

 久しぶりに歌舞伎町に行った。ここしばらく遊んでいなかったから、たまには羽目を外そうと思ったのだ。
 歌舞伎町といえば向かう場所はほぼ決まっている。僕はすでに予約をしていた。さほど大きなところではないので、当日ふらっと行って席が空いている可能性は低い。初めてそこに入った時は少しばかり緊張したが、慣れてしまえばなんてことはなかった。むしろ今では自分が最も自分らしくいられる場所と言っていいかもしれない。僕は期待に胸を膨らませながら、きらびやかな通りを突き進んだ。

 やましい気持ちがあったわけではないが、僕はマスクで顔を隠していた。歌舞伎町を独りで歩いているところを知り合いに見られたくはない。なにせ僕は曲がりなりにも人にものを教える仕事をしている。そんな人間が夜の繁華街で豪遊しているという事実を生徒の保護者にでも知られたら少しばかり具合が悪い。今より不幸になることはあっても幸せになることは絶対にないだろう。ふと冷たい風のように虚しさがよぎる。自分は何をしているのだろうか。一時の快楽を得たところで、一体何が変わるというのだろう?
 ポケットに手を突っ込み、脇目も振らず人ごみの中を突き進む。大事なのは自分の存在を自ら無視することだ。自分自身から目を背ける。この街に集まるのはそれができる人間だけだ。目的地に着くまで一度も立ち止まってはならないと命じられた捕虜のように、僕は寒さに身を縮めながらひたすらそのビルまで歩き続けた。

 ビルに着くと地下に降り、受付で「13番」と静かに告げる。整理番号だ。「新宿V-1」という「V」が何の頭文字なのか全くわからない小劇場。今宵も職業不詳の若い男女が集まっている。

 マヂカルラブリーら4組の芸人が出演するお笑いライブ「マンション4 vol.2」を、僕は1ヶ月以上前から楽しみにしていたのだ。
 
by msk_khr | 2011-02-03 03:00 | 日々のこと